ある冬の日のお話し

  • 2020年6月26日 21:04

長応寺異聞 その1

ある冬の日のお話し。冬のお寺の廊下は寒いので片側の部屋を閉め切って機材をセットして練習していた、部屋と云っても二部屋をつなげれば30畳ほどある大きな部屋なんだけれど、そんな冬のある日、ゴトゴトとふすまが開いて一人の老人が入ってきて、そうだねー、90歳をもうとっくに過ぎているような、ほとんどあの世とこの世を半分半分で生きているような目をした、そんな老人がニコニコと微笑みながら座って僕の練習を見ていた。

すると和尚が慌ただしく入って来て、「アキさん、ちょっと手伝って、」なんて云われて、本堂の片隅に保管してある数十個の骨壺を一つ一つ開けて中に入っている埋葬許可書かなんか判らないけれど、その骨壺の人の名前を一つ一つ確認した、骨は白くてきれいだ、、、あ、これだこれだ、なんて云って和尚はその骨壺を部屋で待っていたその老人のところに持って行った。

するとこの老人はいきなり骨壺のふたを開けて、中を覗き込むようにして、大声で、ばあちゃん、元気かー!、と叫んだ、そのとき冬の風がヒューと吹いて庭側のガラス戸が、ガタガタガタガタと揺れた。不思議な冬の一日だった。

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