平成14年3月30日午前11時

命が空に溶けてゆく 煙突の煙の向こうには 春の青空が広がり
流れる川の堤防を 笑いながら子供達が通り過ぎてゆく
遠くに見える家々の 軒下に干された洗濯物が 白く風に揺れ
いつもの様な時が 静かに流れている


彼岸の日に供えられた花々の その幾らかはまだ枯れもせず
風に晒された灰色の墓石の群れを彩り
燃えさかるオレンジ色の炎は 幽かな音を立てて
過ぎし日の扉を叩く


地面にポッカリと開いた 大きな深い穴を 無言のまま覗き込んでいる様に
止まった時が ゆっくりと過ぎてゆき
秋の様な春の日に 私の夢の中で
父の夢は静かに醒めてゆく


そうだ 此処は秋には赤トンボが群れ飛ぶんだ


早咲きの桜が満開のとき 父は逝った

君の上に月輝く

君の上に月輝き
吐く息は白くかすんで、夜に滲む


君の上に月輝き
もの言わず一人プラットホームに座る君は、
遠くを見つめて少しも動かず


君の上に月輝き
私は離れて 夜の気配に聞き耳を立てれば
一人の君の無言の声が 街燈の灯りの下にフワリと浮かんで
ゆっくりと私の方に 流れてくる


君の上に月輝き
君はいつも剥き出しの 輝く魂を 私たちの前に差し出してくる
君の父母は 遍く月の照らすがごとく
笑いながら 大きくそれを受け止める


しかし私は話しかけることも出来ず 笑いかけることも出来ず
流れ来る言葉を 右肩にかすめて
静かに うつむいて立ち去るだけ


君の上に月輝き そしてまた 君の上に月輝く

愛し合う人達や 憎しみ合う人達が
同じ舟で旅をする


憎しみを背負って生きる人たちの、悲しみ
愛に包まれた人達の、喜び


なぜ人は出会うのだろう


漆黒の闇夜を静かに進む、舟の中で
なぜ人は憎しみを生きなければならないのだろう


遠い地球ではもう雨は止んだのだろうか