「長応寺異聞」その2

  • 2024年7月 1日 09:52

四年前のちょうどこの頃、コロナの最中に「長応寺異聞」と題して、長応寺にまつわる話しを六話投稿していた。「その1」から「その6」までの六回の投稿を一回ずつ再投稿したい。長応寺は私が作曲とか練習とかにいつも御世話になっている大月・猿橋の曹洞宗のお寺さんです。話はほとんど20数年前の本当の出来事ですよ。

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「長応寺異聞」その2 2020年6月28日 投稿

多分、冬が過ぎてもまだ寒かった頃だと思うけれど記憶がはっきりしない。本堂の片側の部屋で深夜目が覚めると目の前を蝙蝠が飛んでいた、否、舞うと言った方がいいかもしれない、豆電球に照らされた十五畳程の部屋の空中を蝙蝠が三匹、縦横無尽に舞っていた。瞬くことすら出来ない素早さで、三匹の蝙蝠が舞っていた。狭い部屋の中で、豆電球の回りを、何処にもぶつかることも無く、羽ばたきの音すらしない。深夜の本堂の静寂の中で蝙蝠達は障子にその影を映し部屋を大きな走馬灯に変えた。僕は移り変わる影すら追うことも出来ず、唯、唯その光景を眺めていた。

何れ程の時が経ったのかは判らなかったが、僕に気がついたのか蝙蝠達は一瞬にして姿を消した。おそらく鴨居のすきまにあっという間に入り込んだのでしょう、壁の間に巣を作っていたようだ。ぼう然とした後には豆電球の薄明かりに照らされた真夜中の本堂の静寂が残された。それ以来蝙蝠は出なかった。

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