平成14年3月30日午前11時

命が空に溶けてゆく 煙突の煙の向こうには 春の青空が広がり
流れる川の堤防を 笑いながら子供達が通り過ぎてゆく
遠くに見える家々の 軒下に干された洗濯物が 白く風に揺れ
いつもの様な時が 静かに流れている

彼岸の日に供えられた花々の その幾らかはまだ枯れもせず
風に晒された灰色の墓石の群れを彩り
燃えさかるオレンジ色の炎は 幽かな音を立てて
過ぎし日の扉を叩く

地面にポッカリと開いた 大きな深い穴を 無言のまま覗き込んでいる様に
止まった時が ゆっくりと過ぎてゆき
秋の様な春の日に 私の夢の中で
父の夢は静かに醒めてゆく

そうだ 此処は秋には赤トンボが群れ飛ぶんだ

早咲きの桜が満開のとき 父は逝った