『沙羅の糸』2010年9月13日「スイートベイジル」コンサート

秦琴:深草アキ
笙 :豊剛秋(ぶんのたけあき)
編鐘:孟暁亮(モンシャオリャン)
パーカッション:甲斐いつろう

「秦琴」の弦は “絃” と云はず “糸” と言う。春蚕を生きたまま繰る。少し残酷な様だがこれが一番粘りのある糸を作る。高温の湯の中で「座繰り」で操られる雪のように白い数個の繭がくるくると回る時、幽かな水音を立てる。この “繭の水音” はやがて密かに糸の中に閉じ込められる。

「秦琴」を弾いていると鳴り響く音の彼方から、いつの日にか閉じ込められたこの “繭の水音” が幽かに聞こえて来る。この音の中で私は幾多の人々に出会い、そして別れた。
「沙羅の糸」は「秦琴」の糸でもあり、出合いの糸でもある。「笙」と「編鐘」の音が秦琴に寄り添い、打楽器がゆっくりと軽快に時を刻む。私の命は “繭の水音” に連れられ、まだ見ぬ月の灯りの下にやがて運ばれる。