千年の幻想

いく里も続く 蓮の花に  君は眠る
君はその夢から醒めぬがいい
醒めれば  天上を穿つ 鏡の様な月に
多くの枯れた蓮池が 映るのを見るのだから


私は 空にそびえる楼閣に 君を待ちながら
静かな月の夜は 一人琵琶を弾こう


細い柄に張られた 三条の絹糸が 円体の胴を震わせ
流れ出る音霊は 深い夜を通り抜け 山河を渡り


千年の時を隔てた君に届く


君は或る夜 目を醒まし 天上に横たわるオリオンを見つけたら
両の手で 小さな池に凍り付いた 月を掬え


月は溶けながら 幽かな音をたてる
もし君がその音に 千年の風を感ずることが出来れば
私は又君と会うことが出来る


時を隔て 国を隔てても 人の想いは変わらない
嘗て私も 遥か古の人の思いに触れていた
今君が見ている夢は 遠い昔私も見ていた


連綿と続く人の営みの中で
私が音楽に捧げていた様に 君も又捧げ得るものを見つけ
その想いや祈りを 遥か未来に伝えよ


今日 空を見上げれば
月は天上に輝き 此岸の空に 銀河は流れて 西に傾く
そして又、明日 空を見上げれば
星は天上に瞬き 彼岸の空は 彼方に霞みて まだ見えず