物語

もうとっくに 日が落ちて 夕闇を人が行く
もうとっくに 鳥も帰り 静かにまた物語の幕があく

夏の夜の満月を 見上げるように
秋の枯れ葉に 耳を澄ますように
雪降る音を 聞くように

時には 遥か南の海に眠る 幾百万の魂を 弔おう
時には 遥か大地に 森に眠る 幾百万の魂を 弔おう

そして 彼らの物語に もの言わぬ言葉に 静かに耳を傾けよう

あるいは母のために あるいは父のために
あるいは天皇のために あるいは国のために 
あるいは愛する人のために あるいはこの山河のために

多くの人を殺し 多くの人が殺されたこの物語を
また 誰が演じるというのだ
底知れぬ恐怖と悲しみの物語を
また 誰が演じるというのだ

無声映画のように もの言わぬ彼らの言葉に 耳を傾け
そして時には 雪の中 小さな鈴を振るように 彼らを弔おう
そして時には 満月を映す海を静かに泳ぐように 彼らを弔おう
そして時には 雨の日 窓打つ音を聞きながら 愛する人を思うように

彼らを弔おう

あるいは母のために あるいは父のために
あるいは天皇のために あるいは国のために 
あるいは愛する人のために あるいはこの山河のために

多くの人を殺し 多くの人が殺されたこの物語を
また 誰が演じるというのだ
底知れぬ恐怖と悲しみの物語を

また 誰が演じるというのだ

もうとっくに 日が落ちて 夕闇を人が行く
もうとっくに 鳥も帰り 静かにまた物語の幕があく


また 物語の幕が開く