伝説の弦楽器「絃鞉(げんとう)」にを取り上げてみます

  • 2023年5月22日 11:40

五弦琵琶とか老秦琴とか弦楽器の繋がりで伝説の弦楽器「絃鞉」にを取り上げてみます。御託がちょっと長いですよww。曲は『絃鼗三日月』(CD 満月の滑空)です。

梁・沈約の『宋書』の中に、三国・魏の杜摯(字德魯、生没不詳、255年頃没)の言として「絃鞉(げんとう)」と云う言葉が初めて現れる。以下のように記されている。
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……杜摯云、長城之役、絃鼗而鼓之 (…..杜摯の云うには、長城の労役の時、絃鼗を弾いていたと)

また、『初学記』徐堅(659〜729)に引く、『古今楽録』(佚書)には次のように記されている。
智匠「古今樂録」日、琵琶出於絃鼗:杜摯以為、興之秦末、蓋苦長城役、百姓絃鼗而鼓 (智匠の「古今樂録」に曰く、琵琶は絃鼗から出ている:杜摯は秦末に興ったとしている。思うに長城の労役に苦しみ農民が「絃鼗」を弾いていたのである)
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ここに書いている琵琶は楽琵琶や薩摩琵琶のような楽器ではなく、円形の胴体に棹があり柱(フレット)が12個あまりついている阮咸や秦琴の祖先のような楽器ですね。

また、明の潘之恒もその著作『亘史鈔』において、「絃鞉―即今之三絃 為張聘夫作」と題した一編を書き、清初の学者、毛奇齢(字大可又は斉宇、1623〜1716)の『西河詩話』中の「三絃」の記述は潘之恒から着想を得たものである可能性が強い。

とにかくこのような文章を根拠に、古の音楽学者も昨今の学者も、阮咸や三弦(秦琴もふくめて)などの楽器は「絃鼗」が源流であるとする説をとっていることが多い。

しかし当の「絃鼗」なる楽器の壁画や画像塼(がぞうせん)などの実際の事例が一つも見当たらない。

今のところは、紀元前2、3世紀ごろシルクロードの交易を担っていた月氏の民がもたらした楽器かもしれないというような、ロマンと伝説の楽器にしておくのが順当かもしれない。

詳しくは私の拙稿「潘之恒における『絃鞉〜三絃源流説』」(東洋音楽研究 第77号)を参照してください。
論文 http://akifukakusa.com/note/note-toyoongakugakukai.pdf
論文集サイト http://akifukakusa.com/note/ronbun.html

そんな「絃鼗」に思いを馳せた曲『絃鼗三日月』です。CD「満月の滑空」から。

 

 

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